ドクターインタビュー

歩けることの大切さと有り難さ

歩けることの大切さと有り難さ

循環器部長・内科医局長小西克尚

内科ドクターインタービュー

循環器部長・内科医局長 小西克尚

歩けることの大切さと有り難さ

食生活の欧米化や高齢化に伴い動脈硬化性疾患である虚血性心疾患や脳血管性疾患が増えていますが、下肢閉塞性動脈硬化症も急激に増加しています。しかしながら、この疾患についての知識が一般の人には浸透していないことが問題視されています。
今回、当院で同疾患を専門的に対応されている日本循環器学会循環器専門医の小西克尚先生にお話を伺いました。

下肢閉塞性動脈硬化症について教えて下さい

下肢の血管は動脈硬化を起こしやすく、細くなったり詰まったりすることで血流が悪くなります。最初のうちは足の指先がしびれたり、血色が悪くなる程度ですが、進行すると歩いただけで痛みが生じ、歩けなくなります。そのまま放っておくと、やがて安静時にも痛みが強くなり、傷が治らなかったり、皮膚に潰瘍ができて感染、壊死に繋がる病気です。60歳以上の高齢男性に発症しやすく、喫煙が最大のリスクです。高血圧や糖尿病、脂質異常症、透析も大きな要因です。壊死してしまうと、下肢を切断する事態にまで発展することがあります。脚がなくなれば、満足に歩くことも、日常生活を送ることも難しくなります。トイレやお風呂も介助が必要となり、望まない施設入所や寝たきりとなるケースも存在します。できるだけ軽症のうちに発見し、早期に治療を開始することが大切です。
動脈硬化は全身の病気であり、この病気をお持ちの方は狭心症や脳卒中のリスクもあります。これらの合併症が併存していることも多く、全身的な検査やケアが欠かせません。疑って検査を行わないと発見できないことも多く、通院していても、健康診断などでも見逃されやすい病気のひとつです。

歩いていると足がしびれる。これは動脈硬化が原因ですか

歩行時に足がしびれる、痛くなるのは「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれます。閉塞性動脈硬化症で生じる症状ですが、神経的な病気や脊椎の異常で生じることもあります。MRI検査などで発見できることがあります。整形外科や脳神経外科への紹介も行っています。

どんな検査が行われますか

血圧計や画像検査による判定が行われます。最も単純・安価かつ有効な検査方法は、両手・両足の血圧を測定すること(ABI)です。明らかな左右差や、手よりも足の血圧が低ければこの病気が疑われます。画像検査では、超音波診断(エコー)、CT検査、MRI検査、カテーテル造影検査などがあります。超音波は最も簡便で侵襲度も低く、30分程度で結果が分かります。治療後のフォローアップにも使われます。CT検査は画像的に最も有用であり、一部だけでなく、広い範囲の動脈硬化病変や狭窄度、閉塞している長さなども測定できます。見た目が分かりやすいため、他病院へ紹介したり、バイパス手術の術前検査にも有用です。検査時間は30分ほどですが、造影剤を必要とし、被曝量が多いことが難点です。MRI検査は造影剤が不要であり、磁気検査なので被曝も生じません。検査は1時間ほどですが、予約に数日から数週間かかることがあります。また音が大きく、じっとしている時間が長く、閉所恐怖症の方は検査を受けることができません。カテーテル造影検査は入院が必要ですが、上記の中でも判明しない詳細な情報が得られます。カテーテル処置やバイパス手術が必要となった場合、この検査を受けることが前提となります。

どのような治療を行うのですか

動脈硬化性疾患は生活習慣病であり、生活習慣の改善が最も大切です。食事や運動療法など、単純ながらなかなか改善できない面もあり、栄養指導や運動リハビリテーションも必要となる場合があります。治療は内服治療と内科的カテーテル手術、外科的バイパス手術があります。内服治療は抗血小板剤や抗凝固薬など、いわゆる「血液をサラサラにする」薬剤を主に使用します。また一部の薬剤で病状の悪化を招くものもあり、まずは内服薬の確認、調整を行います。内服治療、運動療法でも改善が得られない場合や、急速に病状が悪化している場合、既に感染・潰瘍などが生じているケースでは、入院によるカテーテル手術を行います。当院では血管外科がないため、重症であれば近隣施設へのバイパス手術依頼を行っています。

カテーテル手術について教えて下さい

カテーテル手術は準備期間も短く、早期に効果が得られ、患者さんへの体力的な負担も少ないため、近年では広く全国で行われています。バイパス手術と違い、全身麻酔も必要ありません。皮膚への切開も数ミリであり、大きな傷も残りません。局所麻酔を行い、不安な方は術中に静脈麻酔を行う場合もあります。技術的に難しく、循環器科の医師なら誰でも処置が可能なわけではありません。複数回の処置を要したり、段階を経て治療を行っていく場合があります。成功率は術者の技量に大きく依存するため、難しいケースやすぐ再発する症例もあり、日々知識と技術の更新が必要です。
わたしたちはなるべく最新・最善の医療を提供できるよう、近隣の病院や全国的な研究会、勉強会に参加しています。

バイパス手術について教えて下さい

2000年頃まで、この病気に対する治療はバイパス手術が第一選択でした。カテーテル治療の技術が未発達であり、術者の技術も限られていたことが主な理由です。現在でもバイパス手術の成績は良好です。「詰まったトンネルを再度掘削するより、新しいトンネルを掘ったほうが良い道路ができる」のです。ただ、全身・広範囲麻酔が必要であり、術後に大きな傷が残ったり、痛みが強いのが難点です。わたしたちはカテーテル治療にとらわれることなく、患者さんによって最善の方法を選択できることを目指しています。当院ではバイパス手術ができないため、近隣施設を紹介しております。また手術後のフォローアップや、手術後に病状が悪化した際に追加でカテーテル治療が行われるケースもあり、症状・症例に応じた治療を行っています。

最後に一言

「死ぬその日まで自分の足で歩けること」はとても重要です。足が弱れば、心臓も呼吸も弱ります。認知症も糖尿病も、あらゆる病気が悪化します。足の切断に至る方も多く見えますが、その大半は「ここまで重症とは思っていなかった」と口にされます。
少しでも多くの方が健康に寿命を全うしていただけるよう、最適な医療を提供することが当院の使命と考えております。