ドクターインタビュー

今どきの漢方(和漢)診療について

今どきの漢方(和漢)診療について

内科菅生昌高

内科ドクターインタービュー

内科 菅生昌高

今どきの漢方(和漢)診療について

漢方薬は比較的副作用が穏やかであるとされ、日常生活の改善のために取り入れる人も増えています。また、西洋医学で用いる薬と併用することもあります。しかしながら、多くの病院診療は西洋医学中心であることから、一般の方々にとっては、今どきの漢方診療がどういう位置づけにあるのか分からないのが実情と思います。
今回、日本東洋医学漢方専門医で、当院の漢方外来を担当されております菅生昌高先生に、今どきの漢方診療についてお話を伺いました。

そもそも漢方診療は西洋医学と何がどう違うのですか?

漢方診療について「何を診察してもらえるのか」とか「どこまで(症状が重くても)見てもらえるのか」と時々聞かれることがあります。実は「漢方」とはとても広い概念なのです。
江戸時代末期までは「漢方」という言葉はありませんでした。医者にかかると言えば当時の医療は全て今で言う「漢方」だったのです。江戸時代になってオランダ医学が入ってきたときに、それを当時の医学と区別するため「蘭方」と称していました。明治になり政府が文明開化の名の下に西洋医学を「医学」としたため、それまでの医学に「漢方」と名前をつけたのでした。現在の「漢方」の大まかには日本の伝統医学に中国の伝統医学が融合して発展してきたものとされています。
このような経過から、実は「漢方」とは日本の伝統医学を指しているため、診療可能な範囲は全ての疾患となります。ただ何事にも得意不得意があり、多くの感染症や悪性疾患などは通常治療の方が効果は高いと言わざるを得ません。しかし通常治療で十分な効果が得られないときや、副作用を含む症状の緩和などには一定の効果があります。また先般のコロナ感染症とその後遺症のように有効な薬剤がはっきり決まっていないとき等にも効果を上げることがあります。
漢方医一人一人が全ての分野が得意というわけではありませんので診察医の得意不得意も影響します。また煎じ薬を処方している病院であれば組み合わせで色々な処方を作ることができますが、通常はエキス製剤という薬湯液をインスタントコーヒーのようにフリーズドライしたものを使いますので調剤薬局さんに置いておらず取り寄せまで時間がかかる場合があります。ともあれ普通の(西洋)薬ですっきりしない症候が改善する場合もありますのでご相談いただければと思います。

漢方診療の診察方法を教えてください。

診察方法は、問診と診察が主となります。問診は富山大学の和漢診療部で用いられていた問診票を簡単にしたものを用いています。漢方診療で特徴的な診察は、脈や舌、そしてお腹の圧痛点等を見ていきます。症状のある部位と異なる部位の診察や問診で最初は戸惑われる患者さんも多いのですが、隠れた体質が症状に影響している場合もありますので初診の際は主訴に関係ないと思われるところまであちらこちら診察していくこととなります。

漢方薬の出番と言える症状を具体的に教えてください。

こんな症状には漢方薬が有効です。

  • 夏バテ
    今年の夏も暑かったですが、普通の西洋薬では夏バテの薬はありません。精々がビタミン剤と点滴ぐらいでしょうか。漢方薬では弱った胃腸を助けて元気にする補中益気湯や、暑さに体する抵抗力をつける清暑益気湯などが有ります。痩せ型の疲れがとれにくい感じの方が効きやすいです。
  • こむら返り
    こむら返りの対症療法として芍薬甘草湯が有名です。暑い中いっぱい動いた夜や汗をいっぱいかいたあとなどに出やすいようです。「こむら返りが出そう!」と思ったら出る前に芍薬甘草湯を飲んでおくと出にくくなります。それでもこむら返りが出るようなら出た際にもう一回飲むと、痛みが緩和します。透析患者さんで透析後半から終了後にこむら返りが出る場合にも効果的です。この使い方は漢方では標治という対症療法となります。芍薬甘草湯は甘草という生薬が比較的多く含まれており、浮腫や高血圧・電解質異常等が出やすいので注意が必要です。頻度が多い場合には別の漢方薬を用いて体質改善を試みると良いと思います。
  • めまい
    ぐるぐる回る回転性めまいやふわふわ揺れる動揺性めまい等があります。五苓散苓桂朮甘湯連珠飲等が用いられます。但し難聴と同時にめまいが出た場合は突発性難聴によるめまいと考えられますのでできるだけ早く(遅くても48時間以内)耳鼻科を受診して治療を受けて下さい。専門的に治療しないと難聴が残ってしまう場合があります。
  • お天気頭痛(偏頭痛)
    天気が崩れる前に頭痛が出る場合は、気圧の変化を感じて頭痛となっていると考えられます。大抵は雨の日の1日前が多いようです。但し台風などが近づいているときは、台風が通り過ぎるまで何日も調子が優れないことがあります。このような場合は五苓散が効果的です。なお女性の生理周期(月経前後や排卵期)に合わせて起こる偏頭痛は別の処方が効果的です。
  • 更年期症状
    元々漢方治療は婦人科症状と相性が良いようです。月経不順や更年期症状、月経随伴症候群等を緩和出来ることがあります。漢方薬単独ではなく産婦人科の通常の処方と合わせて治療していくことが多いです。月経過多や月経痛などにエストロゲン製剤(ピルなど)を使用して、薬剤性の更年期様症状の緩和にも漢方薬が効果を上げることがあります。
  • コロナ感染の後遺症
    感染症の後の長引く咳やめまい、体力の低下や味覚・嗅覚障害など西洋薬の治療ではなかなか効果が上がらない症状に対して漢方薬を用いて症状が緩和されたり速く取れる場合があります。
  • 風邪
    当然漢方薬にも風邪薬はあります。しかし普通の西洋薬で治ることも多いので、漢方薬の出番としては、一度引くとなかなか治らない場合や、体質が弱くて風邪を引いてばかりいる様な場合には良い効果が出ることがあります。
  • フレイル(加齢に伴って心身の衰えた状態)
    年齢を重ねてくると、だんだん“体力”がなくなってきます。食欲不振や筋力低下・不活発などに近年「人参養栄湯」を使うことが多くなってきました。漢方診療では、“体力”がなくなってきた状態を虚証といい、体のエネルギー不足を補っていくような処方があります。問診・診察で体質に合った処方を選んでいきます。
  • スポーツに
    先に挙げた運動中のこむら返り予防に五苓散や芍薬甘草湯があります。転倒して打ち身などのケガをした場合、漢方式血液サラサラ製剤の駆於血剤が治癒を早めます。有名なのは治打撲一方ですが、出典には落馬して打撲したときに服用すると書いてあります。なお上記製剤には含まれていませんが、一部麻黄含有製剤ではドーピング規制に抵触しますのでご注意下さい。
  • 二日酔い
    市販のドリンク剤でも良いのですが、翌日が楽になる処方があるとかないとか。12年ぐらい前に関東地方では五苓黄解なるドリンク剤のテレビコマーシャルが流れていました。これは五苓散黄連解毒湯という処方を混合した物ですが、二日酔いを薬効から考えるとよく効きそうです。

わかりやすい症状を挙げてみましたが、このほかにもいろいろな疾患・症状に漢方薬の出番があります。普段の疾患でちょっと困った・今ひとつすっきりしない場合にはご相談ください。ほとんどの場合には普段の掛かり付けの病院の処方と漢方処方は対立しませんので、いつもの薬は急にやめないで受診してください。

最後に読者にメッセージをお願いします。

漢方外来では、漢方薬を用いることで今の治療だけでは治しきれない疾患や症状について漢方薬でもう少し良くなることを目指します。上記の症状など普通の薬では治しにくい症候の改善や、現在かかっている疾患の治療にもう少し何か加えたら少し改善しないかという場合に、遠山病院「漢方外来」を受診していただければ、何らかのお手伝いをさせて頂きます。