ドクターインタビュー

地域に欠かせない病院として輝くために

地域に欠かせない病院として輝くために

理事長(内科)西村広行

内科ドクターインタービュー

日本の社会は先進国でも先陣を切って高齢化が進んでいます。高齢化社会においては医療をはじめとする社会保障制度の充実が重要であり、病院の役割も時代にあわせて変化していく必要があります。すなわち、従来の「病気を治しきる医療」から「病気を抱えながら生きるための医療」が求められるようになり、国が進める地域包括ケアシステムにおいても「ときどき入院、ほぼ在宅」という目標を掲げ、高齢者の方が地域で自分らしく生活できる暮らしを目指しています。
遠山病院では、国の方針を鑑み2023年7月より地域包括ケア病床を大幅増床し、2024年1月からは在宅医療を担う訪問診療も開始しました。従来の急性期医療に加え、地地域コミュニティホスピタルとして新たな展開を迎えた遠山病院ですが、今回、遠山病院理事長の西村広行先生に、今、求められる地域医療についてお話を伺いました。

日本の高齢化はどれくらい進んでいますか?

日本では、2010年に65歳以上の高齢者の割合が人口の23%を超え、超高齢社会に入ったとされました。以後も高齢化のスピードは加速しており、2023年にはついに10人に1人が80歳以上となり、高齢者(65歳以上)の総人口に占める割合比較でも、日本(29.1%)は世界で最も高く、次いでイタリア(24.5%)、フィンランド(23.6%)などとなっています。もはや「団塊の世代」800万人全員が75歳以上、つまり後期高齢者となる2025年問題(雇用、医療、福祉といった日本経済や社会の広い領域に深刻な影響を及ぼす諸問題)は、すでに現実になっているのです。

地域包括ケア病床について教えてください。

国は少子高齢化に伴う社会保障費の抑制に向けて、医療・介護を病院完結型から、機能分化させた病院・在宅医療・介護施設など総合的なネットワークを構築して対応しようとしています。中でも、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける事ができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。そのために必要な病床が地域包括ケア病床です。

地域包括ケア病床は一般的に4つの機能を果たすための病床と定義されています。

  • ① 長引く急性期治療や回復期のリハビリが必要な患者さんの受け入れ
    (ポストアキュート機能)。
  • ② 在宅や介護施設で療養中の患者さんが、軽症急性疾患に至った場合の緊急受け入れ
    (サブアキュート機能)。
  • ③ 予定された処置、簡単な手術、指導や薬の調整を行うための予定された患者さんを受け入れる機能。
  • ④ 自宅(もしくはそれ相当の地域の施設)に帰るための準備を行う機能
    (在宅復帰支援)。

「ときどき入院、ほぼ在宅」を必要とする高齢患者数に対し、地域での包括ケア病床は依然不足しています。令和5年度の全国都道府県別の包括ケア病棟算定病院数は、三重県は第36位と、圧倒的に後進県になってしまっています。その中で、私たちが地域コミュニティホスピタルとしての牽引役となるには、「在宅医療をバックアップするという役割を明確に示す。」また、「地域のクリニックや在宅医とシームレスに連携しながら、地域に求められる病院機能を提供していく。」必要があります。

地域コミュニティホスピタルって?

超高齢化が進む世の中にあって高まり続ける医療ニーズに対し、地域の医療インフラはこのままでは支え続けることが不可能になりつつあります。今、本当に必要とされるのは、「病気」を診るだけの医療ではなく、「患者」を診て、「社会」を診て、「治し、支える医療」、これこそが、私たちが考える地域コミュニティホスピタルの定義になります。
遠山病院は津市の2次救急の一角を担い、これまでも地域に欠かせない急性期の病院として診療にあたってきました。当院は、地域で必要とされる医療を幅広く提供しており、この流れは変わることはありません。それでも、地域に欠かせない病院としてより一層輝くために、従来から得意としている腹部救急や高齢者医療を軸に、超急性期以外のすべての医療、健診、リハビリ、栄養管理、介護などのケアをワンストップで提供する病院を目指して参ります。

そのために、まずは3つの医療体制を整備致しました。

  • 1. 在宅医療を担う訪問診療
  • 2. 地域急性期(在宅療養者の急変など)に迅速に対応できる救急医療体制、病棟、病床の確保
  • 3. 介護される方々が一定期間安心して休息していただけることを目的としたレスパイト入院
レスパイト入院とはどんな入院ですか?

「レスパイト」とは「休息」「息抜き」といった意味の言葉です。レスパイト入院とは、介護する側と受ける側、両者のストレス軽減を目的に作られた短期入院制度です。介護をしているご家族に休息して頂くために、自宅療養中の患者さんに一時的な入院を提供する仕組みを言います。介護者の負担軽減を目的とするものであり、自宅療養中の患者さんが一時的に入院することができます。治療目的の入院ではありませんので、当院「患者サポートセンター(TEL059-224-7029)」に気楽にご相談いただければと思います。

医療コラム

患者サポートセンター(PDF)

多職種連携について教えてください。

高齢者医療を幅広く包括的に支える地域コミュニティホスピタルとして、私たちが大切にしていることは多職種連携です。たくさんの医療職が専門性に応じた支援を、患者さん個々に提供する。医療的側面だけでなく、患者さん自身の意向に関すること、ご家族を含めた周囲の状況に関すること、患者さんのQOL(Quality Of Life:生活の質)に関わる情報など多方面から患者さんを知ることは、「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現する柱となるはずです。
高齢者の背景は多種多様であり、受け入れられる治療は個々で大きく異なります。そのため、当院では科学的な根拠を大切に、多職種(医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど)で患者個々に最適な医療を提供しています。JONSENらの4分割法を用いた臨床倫理カンファレンスを適宜開催し、従来の医師主導型でなく、全職種がフラットで個々の患者さんに向き合い、情報を共有するよう努めています。

最後に読者にメッセージをお願いします。

中国の古典に「小医は病を医す。中医は人を医す。大医は国を医す。」という言葉があります。普通の医師は病気を治す。少し優れた医師は病気を通して人にかかわる全人的医療を行う。さらに大医は病人や病気を通して社会にかかわり、社会を治す。という意味です。遠山病院の大切な特徴の一つが「患者さんの病気だけを診るのでなく、人という存在を大切にする。」であり、まさに専門職を活かして、患者さんに寄り添う「小医かつ中医」にあたります。今回、「急性期+地域コミュニティホスピタル」としての新たなスタートは、遠山病院職員が一丸となって地域に貢献する、すなわち遠山病院という存在が、地域を医療する「大医」にもなるわけです。
地域に欠かせない病院として輝くために、また「困ったときは遠山さん」といつまでも親しみを込めて言っていただけるように努力して参ります。引き続き、皆様方のあたたかいご支援、ご指導を宜しくお願い申し上げます。